経営破綻の現場を見てきた税理士が、個人向け社債のリスクをどう評価するか

コンサルティング会社勤務時代、大手流通企業の経営再生関連のプロジェクトにかかわった経験があります。社債投資のリスクは人一倍リアルに感じます。そんな私が2026年8月、イオン社債を実際に購入しました。その判断の根拠と、今の社債ラッシュから読み取れる金利の方向性を本音で解説します。

経営破綻の現場で学んだこと

📋 破綻調査経験者が社債購入前に確認する5つのこと
  • ①格付けの推移——直近で格下げが続いていないか
  • ②自己資本比率——財務の厚みがあるか
  • ③有利子負債の水準——返済能力があるか
  • ④事業の代替不可能性——インフラに近い事業かどうか
  • ⑤デフォルト時の回収率——最悪のシナリオを想定できるか

イオン社債をこの5点で評価する

チェック項目イオンの状況評価
①格付けの推移A-(R&I)で安定推移✅ 問題なし
②自己資本比率約6.5%⚠️ 低め(業界水準内)
③有利子負債4兆573億円(総資産の26%)⚠️ 多い
④事業の代替不可能性全国の食品スーパー・モール✅ 生活インフラに近い
⑤デフォルト時回収率過去事例では10〜30%程度⚠️ 低い

自己資本比率の低さと有利子負債の多さは気になります。ただし、これはイオンが不動産・金融事業を大量に抱える事業構造からくるもので、単純に「危険」とは言い切れません。直近の営業利益は前年比33.6%増と過去最高水準です。

⚠️ 日本の社債デフォルト事例

2000年以降、個人向け社債のデフォルト事例は実質1社のみです。ただしその際の回収率は額面の10〜30%程度に留まりました。「デフォルト確率は低いが、なったら痛い」——これが日本の社債市場の特性です。だからこそ投資額の上限管理が重要です。

今の社債ラッシュが示す「金利上昇シグナル」

2026年に入り、個人向け社債の発行が相次いでいます。近鉄グループ、SBIホールディングス、三菱UFJフィナンシャル・グループ、そしてイオン——大手企業が競うように社債を出しています。

これは個人的な見方ですが、発行体側が「今後さらに金利が上がる前に、今のうちに固定金利で資金調達しておきたい」と考えているサインではないでしょうか。

💡 著者の個人的見解:社債ラッシュは金利上昇予兆か

企業は資金調達コストを最小化しようとします。金利がこれ以上上がると予想するなら、今のうちに固定金利で長期の資金を調達しておくのが合理的です。三菱UFJ(10年・3.404%)、イオン(7年・3.087%)など、以前より明らかに高い利率での起債が相次いでいることは、企業自身が今後の金利上昇を織り込んでいる証左とも読めます。

投資家目線では、今後さらに高い利率の社債が出てくる可能性も念頭に置きつつ、今の水準で一定額を固定しておくことのトレードオフを意識する必要があります。

※これはあくまで著者個人の見解であり、金利動向の予測を確約するものではありません。

それでもイオン社債を買った理由

①利率3.087%は現時点で魅力的な水準

格付けA-で利率3%台は、定期預金(0.1〜0.2%)と比べて15倍以上の利回りです。MRFや普通預金に眠らせるよりはるかに合理的です。

②7年という期間のバランス

近鉄社債(5年)をすでに保有しているため、7年物を加えることで満期の分散になります。5年後・7年後と段階的に資金が戻ってくる設計です。

③投資額を絞ってリスクをコントロール

財務面の懸念があるため、投資額は全体のポートフォリオの一部に限定しています。万が一の際も致命的にならない金額設定が大切です。

④イオンは生活インフラに近い

食品スーパー・調剤薬局・金融サービスまで展開するイオンは、純粋な小売業というより生活インフラに近い存在です。仮に経営が悪化しても、国や自治体が何らかの形で関与する可能性が高いと判断しました。

社債投資の鉄則——破綻調査の経験から

  • 格付けより財務の中身を見る——格付けはあくまで現時点の評価。自己資本比率・有利子負債の水準を自分で確認する
  • 「なぜ今、高い利率で起債するのか」を考える——利率が高いほどリスクプレミアムがある。発行体の意図を読む
  • 投資額は「全損しても痛くない金額」に限定する——デフォルト時の回収率は想定より低い。ポートフォリオ全体の数%以内が目安
  • 満期の分散を意識する——5年・7年・10年と分散することで、金利上昇局面でも再投資のチャンスが生まれる
  • 事業の代替不可能性を確認する——インフラに近い事業ほど、いざとなれば公的支援が入りやすい

余談:JAL社債を持ちながらイオンに抵抗があった理由

実はイオン社債を買う際、なぜか強い抵抗感がありました。でも冷静に考えると——

比較項目JAL社債(保有中)イオン社債(今回購入)
過去の破綻2010年に経営破綻・会社更生法破綻なし(マイカルを救済した側)
格付けBBB+A-(イオンの方が上)
自己資本比率約40%約6.5%
社債利率4.0%(高い)3.087%

客観的に見ると、破綻経験があり格付けも低いJALの方がリスクは高い。それなのにJAL社債は抵抗なく買えて、イオンに強い抵抗があったのはなぜか。

💡 行動経済学で言う「利用可能性ヒューリスティック」

コンサルタント時代に大手流通企業の破綻調査に関わった経験が、無意識のうちに「流通=危険」というバイアスを植え付けていたようです。記憶に強く残っている出来事ほど、リスクを過大評価しやすい——これは投資判断においてよくある認知の歪みです。

感情や経験則に頼らず、数字で客観的に評価することの大切さを、自分自身の判断で改めて実感しました。

まとめ

経営破綻の現場を見てきた経験から言えるのは、「格付けを信じすぎないこと」と「最悪のシナリオを常に想定すること」です。その上で、イオン社債は投資額をコントロールしながら保有する価値があると判断しました。

また、今の社債ラッシュは金利上昇局面のシグナルとも読めます。そして自分自身の投資判断が、過去の経験による無意識のバイアスに影響されていることも忘れないようにしたいと思います。数字と感情、両方を意識した上で判断することが大切です。

※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品への投資を勧誘するものではありません。金利動向に関する記述は著者個人の見解であり、将来の金利水準を保証するものではありません。投資判断はご自身の責任のもとで行ってください。社債の購入にあたっては必ず目論見書をご確認ください。

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